「有事の金」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。有事とは非常事態のことです。自然災害や経済的な混乱、国際紛争などが起きた状態を指します。
つまり「有事の金」とは「非常の事態が起こった時でも、金(Gold)なら安心」という意味です。
今回は、なぜ金が有事の金、安全資産と言われるのか、その具体的な理由を学んでいきたいと思います。
目次
「有事の金」の語源とは
有事の金という言葉の由来は、1970年代にまで遡ります。
当時、資本主義のアメリカ合衆国と社会主義のソビエト連邦(現在のロシア)は激しい対立関係(冷戦状態)で、人々は戦争へ発展することへの不安を抱えていました。
もし戦争状態となった場合、株式や現金などの金融資産は価値が暴落する恐れもあります。
金などの現物資産ならば無価値になることはない為、金への買いが進みました。
スイスでは自宅に建造した核シェルターの中に金を保管する人もいたそうです。
このような時代的背景から非常時の備えとしての「有事の金」という言葉が生まれ、社会情勢が不安視されている時は「有事の金買い」がよくされるようになりました。
金が安全資産と言われる理由
なぜ金が安全資産、有事の金と言われるのでしょうか。これから金の、資産としてのメリット、そしてデメリットまで見ていきましょう。
金の資産としてのメリット
- 破綻することがない
例えば株式ならば企業が倒産したり、貨幣であっても国が破綻してしまえば、それら金融資産の価値は紙切れ同然になる可能性があります。
しかし、現物資産である金ならば破綻という概念を持ちません。古代から価値を評価されてきた金は、歴史的にも無価値になる可能性がないのです。
このため、金はリスク回避(リスクヘッジ)のための資産とされ、株式相場が下がったときは、金相場は上がる傾向にあります。
- 世界中で価値が共通である
金取引は米ドルで行われますが、その価格には世界基準となる「国際価格」があり、2大市場であるロンドンとニューヨークの金取引が指標となっています。
そのため、為替相場によって相対的な価格差は生じますが、世界中どこでも普遍的な価値を有する資産なのです。
- 採掘量が有限な自然資産である
人類がこれまで採掘した金の総量は約17万トンです。これは「50メートルプール3つ分くらい」です。
未採掘の金は「プール1つ分くらい」で、あと20年足らずで採掘がストップすると言われる「限りある資源」なのです。資源としての金の用途は多岐に渡ります。
金の資産としてのデメリット
- 保有しているだけでは利益を生まない
預貯金なら利息、株式なら配当金などの受取利子(インカムゲイン)がありますが、金は保有しているだけで利益を生むことがありません。
しかし現物の金以外、金価格に連動する投資信託やETFを保有する場合は例外です。
- 保管コストがかかる
金を現物で持っている場合、盗難や紛失を防ぐために金庫を保有したり、業者に保管を委託したりといった必要があります。
例外は上に同じく、金価格に連動する投資信託やETFです。
「有事の金」が崩れる可能性は
安全資産としての金の地位が崩れる要因があるとすれば、「金の供給が需要を大きく上回る」ことです。これを引き起こす可能性として挙げられるのが以下の2つです。
海水から金を抽出する有効な方法が発見される
海水には金をはじめとした数々のレアメタルが溶け込んでいます。金ならばその総量は50億トンと推定されています。とんでもない量ですね。
有効な抽出方法が発見されれば今の金の価値は一変すると思います。
ただ、含有量は1トンの海水から金はわずか1mgというもので、現時点では費用対効果に見合った方法は確立されていません。
よって現実性はあまりないと考えます。
物質主義の低下、精神主義の向上
現在の金は「宝飾品として」の需要がおよそ半分を占めています。
昨今の時代の流れとして、車や家などの物質的な豊かさよりも、いかに有意義な時間を過ごすか、のような精神的な豊かさの方を重視する考え方があります。
人々の価値観が将来的により精神主義に傾けば、物欲を満たす装飾品としての金需要が減少する可能性もあるわけです。
「有事の金」の今後は
前述のように、「有事の金」という言葉が形骸化する可能性もゼロではありません。しかし、現状に即して現実的に考えるならば、それは至極わずかな可能性と言えます。
金の用途としては、投資用・産業用もありますし、金の金属として安定した性質を利用した医療機器の開発も進んでいるようです。
何より現在の世界情勢を見ても、「人々が安心安全を求める気持ちは今後も高まっていく」と考えられるからです。
人がリスクへの不安を抱え続ける限り、金は「有事の金」として在り続けることでしょう。